純情エゴイスト

□心と体
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「ごめん、ごめんな…野分」

そう謝罪を繰り返す弘樹は野分の胸を押して離れようとする。

だが、やはりその力は弱弱しく歯痒い思いを掻き立てるだけだ。

弘樹を離さないとでもいうように野分は強く抱きしめる。

そして、弘樹と同じく震える声で問うのだ。

「ヒロさん…、俺のこと、まだ好きですか?」

「・・当たり前だ、ばか。」

(あの時、俺はお前に抱かれてた…。お前に触られていたはずなのにっ!)

思わず唇を噛んで、過去の自分に後悔と苛立ちを感じる。

だが、過ぎ去った過去は変えらず、ただ事実だけが残る。

その事実に弘樹は体を震わして嘆くことしか出来ないのだ。

噛みしめた唇を解いたのは、弱々しい野分の声だった。

「なら、ヒロさん。俺だけを…俺だけを見てください。」

弘樹は野分の背中におずおずと手を伸ばし、ギュッと抱きしめるのだった。


野分は胸の中から聞こえる静かな寝息に、弘樹の顔を覗く。

その寝顔は穏やかと言うにはほど遠く、憔悴していた。

「ヒロさん…」

野分は抱く手に力を込める。

そして、弘樹を横抱きにすると弘樹の部屋へと向かう。

久しぶりに入った弘樹の部屋は綺麗に整っていた。

そして、ヒンヤリと冷えきっていた。

野分はどこか違和感を感じながらも、弘樹をベッドに寝かせる。

シワ一つないシーツは部屋と同じく冷えており、弘樹はそんな冷たいシーツが気に入らないのか、野分の胸元を掴んで離さない。

そんな弘樹の姿に苦笑しながらも、やんわりと弘樹の手を取り、部屋の暖房を付ける。

そして、弘樹の部屋を静かに出ていく。

布団の中で弘樹は静かに涙を流していた。

(なんで隣にいてくれないんだよ…。やっぱり、嫌になったのか?いや、嫌われて当然か…。・・・寒いよ、野分。)

部屋を出た野分は、帰ってからの事を思い起こし、混乱した頭を整理していた。

(ヒロさん、泣いてた。めったに泣かないのに…それに浮気したって、いったい誰と?宇佐見さん?宮城さん?それとも…。ヒロさん、俺はヒロさんを抱いたやつが憎いです。)

野分は体をソファーに体を沈めながら、拳に力をこめる。

互いの胸に遣る瀬無い想いを残して、夜は更けていく。


 
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